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  • Yui Kamimura

美術関係者の話題の中心に。活動的なアーティスト・キュレーターが集まり続ける価値

メンバーの軌跡を残す「花園アレイアーカイブズ」今回は、2020年5月から2022年5月まで入居していたscheme verge株式会社を紹介します。地域活性化にテクノロジー活用を提案する企業が花園アレイで得たものとは。代表の嶂南達貴さん、当時社員だった田部井麻名さんのふたりに聞きました。



入居時期
2020年5月-2022年5月

scheme verge株式会社
東京大学発の企業。国内外の旅行者へ向けて、最適なアート旅をおすすめするスマートフォンアプリ『Horai』を開発。写真から好みのアートサイトをアプリ『Horai』内で選ぶと、瀬戸内の島をめぐる旅程を簡単に作成でき、移動手段にはフェリー・旅客船が表示されるほか、乗り合い海上タクシーを予約することが可能。瀬戸内芸術祭の夏会期でにぎわう直島、小豆島、豊島、犬島、男木島、女木島、大島などの島々に対応している。

芸術祭を支えるテクノロジーを提供

──2019年の瀬戸内国際芸術祭をきっかけに事業を開始したと聞きましたが、どんなことをする会社なんですか。


嶂南:地域活性化にテクノロジーを活用していく会社です。事業を始めたきっかけは、小豆島を訪れたときに、地域の方に課題感を聞いたことです。瀬戸内国際芸術祭で盛り上がっているものの、まだまだもったいない部分があると。例えば、海上交通の便が悪くて作品を見る時間よりも待ち時間が長くなってしまうとか、魅力的な場所を知られていないとかです。


そこで、自分が見たい作品に合わせた工程をかんたんに作成できたり、海上タクシーを予約できるスマとフォンアプリを開発して、2019年の瀬戸内国際芸術祭で使ってもらいました。その後、芸術祭を中心に、地域活性化にテクノロジーを活用する事業を展開しています。


──芸術祭に関わっていたことが、花園アレイに入居するきっかけになったのですね。


嶂南:瀬戸内芸術祭でやったことを他の地域でも展開できないかと考えていたときに、知人から紹介されて花園アレイを知りました。まだ立ち上げ前の段階でしたが、アーティストやキュレーターとつながれたらいいと思い、サテライトオフィスとして借りることにしました。




雑談の中で仲良くなるきっかけに

──入居時に期待していたことは、実現できましたか。


嶂南:コロナ禍で交流会があまりできなかったのは残念でしたね。東京大学と東京藝大の人が集まれる場所なので、平時だったらもっと飲食を伴った交流会をして、フランクに仲良くなれたのかなと思います。それでも、2年間でいい繋がりができました。花園アレイには東京藝大の中でもトップ層の人たちが集まっていますし、アーティストだけでなくキュレーターの人もいることが特徴だと思います。


田部井:中での繋がりだけでなく、芸術関係者と話すときに花園アレイの話題を出せることが、大きな価値だったと思います。連携の提案をしたくて各地の芸術祭に足を運ぶのですが、主催者やアーティストと話していると、自然と花園アレイの話題があがるんですよね。そのときに「花園アレイに住んでいます」となると距離が近くなって。奥能登の芸術祭や山口でのビエンナーレなど、実際に連携も進みました。金沢の芸術祭「ストレンジャーによろしく」では主催者の多田さんも花園アレイに入居していると知って盛り上がりましたね。


嶂南:5階のギャラリー「The 5th Floor」は話題性の高い展示を開催していますし、入居しているアーティストも全国で活動している人が多いので、知られていますよね。採用面談のときにも、花園アレイの話題が出ます。


クリエイティブのショーケース

──サテライトオフィスとしてはどんな使い方をしていたのでしょうか。


嶂南:普段使いというよりは、特注の家具などを揃えて、自分たちが地域でやりたいことのショーケースとして使っていました。おもに、撮影や商談のときに使う場所です。僕たちの事業領域は、芸術祭だけではありません。地域にすでにある資産を活かして地域の価値を上げることをしていきたいと考えています。従来は古い建物を壊して新しいものに建て替えるのが一般的でしたが、そうではないことがしたくて。アートや芸術祭から始めているのも、それ自体が地域の価値を上げるコンテンツのひとつだと考えているからです。


──2022年5月に花園アレイを卒業しましたが、どんなタイミングだったのでしょうか。


嶂南:本郷三丁目で、芸術関係者も入居するような自社の施設をオープンすることになったタイミングでした。アーティストとのつながりはある程度できたので、次は、花園アレイで培ったつながりを活かして意味あることをしていく段階だと考えて、転居することに決めました。


地域の面白さを作る人が還元されるように

──今後の事業の展望を聞かせてください。


嶂南:ひとつは、芸術祭に訪れた人の可視化ですね。これまで芸術祭のチケットは紙で売られていて、誰が来ているかや、どういう人が楽しんでくれているかわからない状態でした。アプリで公式チケットを買ってもらうことで、お客さんとしっかりつながって、例えばアウターパーティーのようなことができたり、コミュニティにしていきたいと考えています。


田部井:2022年9月に開催する豊岡演劇祭でもHoraiを使っていただきました。この取組を全国各地に広げていきたいですし、大きな芸術祭だけでなく、花園アレイのコミュニティにいるような若手キュレーターが開催するような展覧会でも活用していきたいですね。広報をしたり、受付スタッフの手配をしたり、本来キュレーターが集中すべきではないことにも時間を取られている状態なので、展覧会を運営する負担を減らしたいですね。


嶂南:さらに、ひとつの芸術祭に来た人が他にどういった芸術祭に足を運んでいるかのデータなどもキュレーターに共有して、次の企画にいかしてもらえたらいいですね。どこかの展覧会で作品を出したアーティストが、別の展覧会にも出ることもあるので、音楽ライブの追っかけのようなことを芸術の世界でも実現できたら面白いですね。また、アーティストやキュレーターに収益が還元されるモデルを考えるのは、僕たちの仕事だと考えています。地域の中でお金が集まって、それがアーティストに分配される仕組みを整えていきたいですね。


──アーティストが稼げる仕組みづくりですね。その先の地域への還元はどのように考えているのでしょうか。


嶂南:地域の課題は、面白いものがなかったり、面白いネタがあっても料理する人がいないことだと思うんですよね。そこを解決しないといけない。便利なサービスはいっぱいできているんですけど、ユーザーがお金をいっぱい使うのって面白いものだと思うんですよね。なので、面白いものを作っている方にも還元される状態にして、その人たちを動かさなければならない。そのひとつがアートだったり、芸術祭だと考えています。


最近では、アートの他にも農業や漁業など一次産業のコンテンツ化にも力を入れています。例えば、ぶどうを育てて、ワインをつくるまでの過程にも関わってもらって、最終的には自分が関わったワインを買ってもらうような。地域にあるものに文脈を持たせて、コンテンツにしていけたらと考えています。それは、芸術祭のような思考回路が横展開できるのではと考えています。

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