メンバーの軌跡を残す「花園アレイアーカイブズ」今回は、2022年6月から2023年7月まで入居していた平諭一郎(たいらゆいちろう)さんを紹介します。東京藝術大学の未来創造継承センターで准教授を務める平さん。研究内容や芸術の多様な”継承”について、そして、花園アレイに感じる価値や可能性についてお伺いしました。
入居時期
2022年6月-2023年7月
平諭一郎(たいらゆいちろう)
東京藝術大学 未来創造継承センター 准教授、芸術保存継承研究会 主宰
1982年生まれ。文化財・芸術の保存/継承研究。文化財、美術品の再現や復元制作とともに、領域横断的な芸術の保存や継承について研究し、展覧会、論考、作品として発表。主な企画に、2018年「芸術の保存・修復―未来への遺産」展、2021年「再演―指示とその手順」展(共に東京藝術大学大学美術館)。
芸術の継承には、さまざまな方法がある
──東京藝術大学の未来創造継承センターでは、どのようなことをされていらっしゃるのでしょうか。
平:私の専門は、芸術の保存や修復です。未来創造継承センターでは、絵画や楽曲のような作品だけでなく、アイデアや表現など芸術の資源を継承し、次の創造に生かす活動をしています。
わかりやすく言うと“アーカイブ”という言葉が近いのですが、実際に私たちが考えていることは少し違います。なにもかもを、そっくりそのまま保存するというよりは、人が手を加えることも踏まえて“持続”させていくことを重要視しているんです。例えば、展覧会や創造過程の記録、素材・道具・作品ができた背景や文脈なども対象です。それらの資料を保管したり、伝えていくためにはどうしたらよいのか。未来に向けて皆で考えるための研究会やシンポジウムを開催しています。
また、そもそも本当に残していくことが皆にとって大事なのかをもう一度考え、何をどのように残すかを吟味し、時には折り合いをつけて終わらせることも、私たちの仕事です。どんな風に終わらせたら幸せなのか、人間でいう“終活”に近いのかもしれません。
──花園アレイに入居されたきっかけをおしえてください。
平:未来創造継承センターは、それまでに大学内にあった組織や機能を再編成し、2022年4月に発足しました。
花園アレイに入居したのは未来創造継承センターの準備期間でした。大学内のスペースや組織を整備するために1年くらい外部の場所が必要だったんです。大学の事務担当者が花園アレイの関係者の方と知り合いで、ちょうど空室があり、1年契約でお借りしました。
東京藝術大学と東京大学の間という立地が、とくに良かったですね。東京大学の方々ともよく一緒に仕事をするので、どちらからも歩いて行けるミーティング場所として、とても便利でした。
開かれたワークスペースが人々を繋ぐ
──どのように花園アレイをご活用をされていたのでしょうか。
平:花園アレイでは、未来創造継承センター立ち上げに関する仕事を中心に、2023年2月発売の書籍『再演―指示とその手順』の編集もしていました。企業の方とミーティングするときは、花園アレイの雰囲気や内装を褒めていただくことが多かったですね。外部の方にとって大学のキャンパス内には入りづらいようで、大学外に気軽に立ち寄っていただけるコミュニティスペース的な場所があるというのは、とてもありがたかったです。
入居者同士の交流会は夜に行われることが多くて、私はなかなか出席できなかったのですが、昼間に開催されていたハーブの摘み取りワークショップなどには参加していました。いろんな人がいろんな想いで花園アレイに集っていて、共有スペースは常にラウンジのように使われていて、交流があり、賑わっている雰囲気がとても良かったです。
個人的にも、大学だけじゃなく社会と繋がっているような感じがして居心地がよくて、ずっと居たかったくらいです。花園アレイを出て大学内に拠点を移してからは、少し寂しいですね。
──とても気に入ってくださっていたということですが、花園アレイに感じる可能性や期待することがあれば、おしえてください。
平:今回、ウェブサイトを改善してインタビューなどを掲載されるということで、花園アレイの入居者や雰囲気が外部の方にも見えるようになるのは、とてもよいことだと思います。
やっぱりコミュニティって、最初は外の人にとって入りづらかったりしますよね。せっかく素敵なことをやっているので、もう少し開かれていくと、もっと活性化すると思います。
9月ごろ、ラウンジスペースにカフェがオープンするとも聞いて、楽しみにしています。研究者やアーティストにとっては、プロジェクターや作品を用いたプレゼンもできて、かつカフェがあるスペースはとても貴重です。
二次創作やアレンジも取り入れ、未来へ継承したい
──今後の事業の展望を聞かせてください。
平:芸術にはいろいろなフィールドがありますが、中でも私は美術を専門としています。
演劇やダンスなどの他の芸術を見ていると羨ましいときがあるんです。過去の名作を自分の演出で再現できたり、二次創作ができたり、少しずつ色をつけながら現代風にアレンジできますよね。そういうことが美術の分野でもできればいいなという想いがあります。
今は、著作権の問題などで難しいと思いますが、80〜90年代は、他者の作品を取り入れて映像をつくったり、展覧会で上映することもたくさんあって、割と緩やかな時代でした。改めて、そういったことも認めながら、アーティストが制作しやすくできればいいなと思います。例えば、原作者と演出家の2人のクレジットで美術作品を発表するというような取り組みがあってもいいですよね。
──今また美術の二次創作やアレンジを活性化させることは、今後の私たちにとってどのような意味を持つのでしょうか。
平:すでに古いものがたくさんある中で、さらに新しいものだけをどんどん生み出していくと、物が溢れてしまいます。古いものを活用しながら新しい見せ方を提示していくことで、未来の人たちが困らないようにすることが大切だと思っています。
花園アレイも、社員寮という使い方が終わり、リノベーションして今はアーティストなどが入居していらっしゃいます。そんな風に違う使い方をすることで、より幸せになる場所・物・作品もあるんですよね。
どういうふうに残していくべきかを決めるのは簡単なことではありませんが、未来創造継承センターや自身の活動を通して、みんなで考えられる社会になるよう、これからも貢献していけたらと思っています。
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