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「Room101」でアートと人の関係を紡ぐ。カフェで拓くアートの可能性

更新日:6月18日




メンバーの軌跡を残す「花園アレイアーカイブズ」。今回は、入居者であり、2023年12月に1階にオープンしたカフェ「Room101」のオーナーでもある堀江 紀子(ほりえ のりこ)さんをご紹介します。花園アレイでアートマネジメントをする会社を営む傍ら、カフェでもアートを通じた人と人、アートと人との交流の場を作っている堀江さん。「作品とカフェと人の関係とその未来を見たい」と語る堀江さんのカフェへの思いや、今後の展望について伺いました。


入居時期

2022年6月-現在


堀江 紀子(ほりえ のりこ)

OFFICE HORIE代表。国内外の現代美術作家のマネージメントを中心にパブリックアート及びアートプロジェクトのマネージメント業務に携わる。横浜トリエンナーレ、あいちトリエンナーレ、金沢21世紀美術館など美術館の展覧会や芸術祭の展示コーディネート業務を担当しながら、アーティスト名和晃平のマネージャーや塩田千春のアシスタントなどを長年経験し、現在は若手のアーティストサポートを中心に活動している。




ーアートマネジメントの会社を経営されているとのことですが、どんなお仕事をされているのですか?


堀江:私は長年、アーティストのアシスタントやプロジェクトのマネジメント、美術館や国際展などの展覧会のお手伝いの仕事などをしていました。


最初は、アーティストの制作アシスタントをしていて、そこからだんだん美術館のキュレーターのアシスタントみたいな形で展覧会の手伝いも引き受けるようになって。それで、美術館ともアーティストとも仕事をするという状況が続いていました。


そんな中でコロナ禍に見舞われ、厳しい状況が2年ほど続いた中で、自分で助成金や補助金などの申請をしたり、知り合いのアーティストの申請を手伝ってあげたりすることが多々ありました。そこで、美術館で働くよりもアーティストに寄り添う立場として、コロナ禍のような大変な状況になった時にすぐに動けるような仕事をしたいと思ったんです。それで当時働いていた美術館の仕事を辞めて東京に15年ぶりに戻りました。


私はアーティストは、“仕事”というよりはその人の“人生”だと思っているので、ビジネスとして割り切らなきゃいけないところと、その人の人生として大切にすべきものがあると思っています。常に答えのない世界で戦っているアーティストにとって、そばで二人三脚しながら”右に行くか”それとも”左に行くか”みたいな答え探しをするパートナーがいた方が活動しやすいのではないかと思い、またそういうことができる人が今後も育ってほしいので、アートマネジメントを軸にして「OFFICE HORIE」を、ここ花園アレイで2023年に立ち上げました。






ー花園アレイに入居することになったきっかけを教えてください。


堀江:実は花園アレイに入居したのも偶然で、本当にタイミングがよかったんですよね。


中国の仕事があった時に帰国後、2週間自主隔離をしなければならず、花園アレイの近くのホテルに滞在していたんです。それで周りを散歩していたら、閑静な住宅街の中で夜中まで電気がついている面白そうなビルがあるのを見つけて。名前を見たら「花園アレイ」と書いてありました。


そして、その日一緒にご飯を食べた友達がたまたま花園アレイのオーナーの小泉さんと知り合いだったんですよ。それで後日紹介してもらったら、ちょうどキュレーターのシェアオフィスに空きが出るということで、とんとん拍子に話が進んで入居に至りました。


そして入居後は5階にあるThe 5th Floorに来るアーティストたちに積極的に話しかけて、東京でアーティストがどのように活動していて、今何に困っていて何が必要なのか、どういう場所が必要なのか、どのようなエコシステムが可能かなどを調査し、1年ほどかけて会社立ち上げの準備をしました。



ー偶然の出会いの中でも、入居の決め手となったものはなんでしたか?


堀江:やっぱりこのロケーションにはすごく惹かれましたね。上野公園など緑が多いことや、藝大生や東大生など学生がたくさんいること、そして少し歩くとアジア圏のコミュニティーなども多く、様々な文化を受け入れる土壌があることに惹かれました。徒歩圏内には美術館やギャラリーも多くあるので、文化的なゆっくりとした時間が常に流れているところが魅力的ですね。あとは出張が多いので、上野駅に近いのは本当に便利です。



ー実際に入居して、どんな場所だと感じていますか?


堀江:オフィスを共にしている若いキュレーター、入居しているアーティストや起業家、建築関係の方々には常にいい刺激をもらっています。あと、自分の知らないビジネススキルを持っているスタートアップの方や今まで出会えなかったような専門分野の方と話すことが多く、すごくいいエネルギーに満ち溢れている場所だと感じています。


また、自然と入居者同士のコミュニケーションから面白い話に発展することも多く、みなさん各々のフィールドで新しい発想や思想を持っている方が多いので、ちょっとしたコミュニケーションでも可能性が膨らんでいくような場面を度々目にしてきました。


そしてアートカフェもできたので、作品をただ展示するだけでなくトークやレクチャーをしたり、海外から人を呼んだり…。いろいろなことが全部ここの建物の中でできて、かつ何が有効かを実験しながら社会に実装できる場所であることがここの強みだと思います。


今まで働いてきたような公共の大きな文化施設だと、税金を使用する目的や公共性が必要になり、どうしても何かしらの制約があるうえに、決裁を取るまでに時間もかかってしまいます。花園アレイはそうした制約が少ない状態で、ぽんと思いついたことをできる自由さがあります。だから私もこうして展示をしながらカフェをやっていたりするんですけどね(笑)



ーカフェはどのようにして始まったのですか?


堀江:もともと花園アレイのこの場所はカフェができるようなしつらえにはなってました。以前はパブリックスペースとして入居者が自由に使える場所だったのですが、内部の人しか使えない状況だったので、もっと近隣住民や観光客、一般の方にも解放して交流を活性化できる場所にできないかと思い、展示もできるアートカフェとして2023年11月にオープンすることにしました。


そして、上野公園の自然との繋がりをこの花園アレイまで持ち込みたかったので「森と自然」、屋上で育てているハーブを使った「HERB&SPICE」というテーマが決まり、当時同じフロアに入居していたデザイナーの中武薫平さんに内装を整えてもらいこのカフェができました。



ーカフェのこだわりを教えてください。


堀江:日常の中で、ふと美しいものと出会うことがこのカフェですごく重要だと思っているので、なるべくどこの席に座っても人の横顔や植物、作品が見えるような席の配置にしています。植物は屋上のハーブガーデンを管理しているMikiko Kamadaさんにお願いしました。


あとは、展示作品から着想を得たメニューを開発したり、メニュー表には展覧会の情報を掲載して、カフェに来た人がよりアート作品を楽しんでもらえるような工夫をしています。器や使う食器もなるべくプラスチックではなく木や土や金属など素材感が感じられるものを選んでいて、ランプはデザイナーさんが壁用の特殊な塗料を使ってオリジナルで作ってくれたものです。また、食材も添加物や加工品はなるべく避けて、身体にいいものを出すよう心がけています。



ー自然やハーブのほかに、アートも一つの大きなテーマなのですね。


堀江:やはり「アート」というのはひとつ軸においていますね。美術館など歩いて鑑賞する場合、1つの作品と向き合う時間ってなかなか限られてしまうと思うんです。また、もっと日常に近いリラックスした状態で作品を見ることができたら、感じ方も変わるのではないかという思いもあります。


最初の展示は写真作品を中心に活躍されている平澤賢治さんという作家さんで、近年はアートを軸に多角的な活動をされているので、養蜂から得た経験にフォーカスしたプロジェクトの展示をしていただきました。作品を展示する以外にも、蜂蜜を試食したり、平澤さんが採取した蜂蜜を販売したり、蜂蜜を使ったカフェメニューを出したり…。そうした、カフェだからこそできる展示が実現できて幸先の良いスタートとなりました。


今回やってみて、近所の1歳くらいの子が「はちさん!はちさん!」とはしゃいで平澤さんの作品に夢中になっている場面を見かけました。その後も、芸術家になりたいという近所の6歳くらいの子が絵を持ってきてくれたりして、日常の中でアートを純粋に楽しんでくれている姿がとても印象に残っていて、美術館やギャラリーとはまた別のアートの接し方の可能性に確信が持てました。現代美術って難しいと思われがちですが、1歳の子でも楽しんでくれるくらい身近なテーマであることも多いんですよね。なのであまり構えずに、普通にコーヒーを楽しむ感覚で作品と接する機会を増やすことができたらいいなと思います。


また、生活の中でアート作品を買うきっかけってなかなかないと思うので、カフェを入り口として、アートを気軽に購入して楽しんでもらう、というところまでの流れを作れたらと思っています。



ーアートへの敷居を下げて、アートと人とが自然と触れ合える場になっているのですね。人と人との交流も生まれているのでしょうか?


堀江:近所の方が1人で来て本を読んでいくこともありますし、いろいろな興味を持った方が集まって活発な交流が生まれています。例えば、The 5th Floorの受付をカフェで始めてからは、展示を見に来た人とアーティストが出会う場になっていたり、キュレーターと作品に興味のある人が話せる場になっていたり。アーティストがフラッときて会話する中で悩み相談をしたり、展覧会の情報をくれたりもします。


学生たちもよく来てくれるのですが、そういった子たちにとって憧れの職業の人たちが入居していたり、近くにいたりすることもあるので、そこで交流があったりもします。また、日常的に入居者さん同士の交流もあり、そこで「今度はこんなことしよう」といった面白い話がたくさん生まれているので、それをどう掬い上げていくかは考えなければと思っています。


それが社会でどう機能するかはまだ実験段階ですが、多くの可能性を秘めていると思っています。例えばここで作品を展示して、購入してもらう。購入する人が増えれば、アートの支援者が増えてアーティストが活動しやすいコミュニティ形成に繋がって、アーティストもここに集まってくるとか、周りの空き家がアトリエになって街づくりに発展するとか。


それが実現できるよう、アーティストが主体的にこの場所で何かができるような仕組みを今から作っておくことが私の役割だと思っています。





ー会社もやりながら、カフェの運営も。大変ではないですか?


堀江:アルバイトさんに色々お願いしながらも、展覧会の仕事をしつつ、夜にケーキを作ったりお店の準備をしたりと、今は寝る暇もなくてすごく大変ですが、アートとカフェと人との関係の先に、その未来があるような気がしていて。それを自分で見てみたい気持ちが大きいです。


この花園アレイにアートカフェを作ったことで、どういうことが起こり得るかをきちんと自分で目撃して、アートを社会のシステムの一部として実装させるところまでいきたいと思っています。


また、今の時代を生きるアーティストから現状や悩んでいることを聞くのも私にとっては財産なので、大変でも頑張れています。今コーヒーを飲みながらあれこれ悩みを話してくれてる若者たちが、何年か後に素晴らしいアーティストとして活躍してくれていたらそれ以上に嬉しいことはないですね。



ー今後の展望を教えてください。


堀江:アートカフェのような作品を鑑賞できる場所が増えたらいいなと思っています。「こういう場所があればこんなものもこういうふうに見せられるんだ」といった、今までとはまた違う展示場所の可能性を広げていきたいと思っています。


また、美術だけでなく音楽なども含めて、ジャンルにとらわれずに表現する人たちのサポートができるようなシステムを作りたいとも考えています。今お店で流しているBGMは、藝大の作曲科に在籍している藤本陸斗さんが上野近辺の音を録音しながら作ってくれた曲なんです。虫の音色や鳥の鳴き声、雨音などが藤本さんのピアノの旋律と重なり合ってとても心地のよい空間が生まれました。そしてカフェの売り上げの一部が音源使用料として作曲家に入るようなシステムにしていて、時々気分で音を変化させることも可能になっています。


このように、作品を発表して多くの人に触れてもらって、それが収入に繋がるような場所が世の中に増えたらいいな、というのはすごく思いますね。


アーティストや表現を目指している人達が発表する場所って圧倒的に少ないと思います。特に東京は、若手のアーティストが作品を作る場所も発表する場もそんなに多くありません。でも、花園アレイはそれが実験的にできる場所だと思います。なので、この場所の強みを生かして、さまざまな可能性を広げていきたいと思っています。

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